まだ誰も知らない恋を始めよう
 自室の天井を見上げながら、俺は考える。


「フィニアスなら幼少期から後継者の教育は受けていて、その責任とか心構えも叩き込まれている」

 そんな風にモーリス卿は俺を評価してくれたけど、本当の俺はそうじゃない。
 
 確かに教育は受けてきた。
 だが、心構えなんて出来ていない。
 5年後、重責を背負うのが怖くて、でもそこから逃げられない、と諦めて。
 流されるままにその日が来るのを待っている。

 ダニエル、君に知られたら失望されるかもしれないけど、俺はそんな情けない男だった。
 ペンデルトンの歴史的シンボルとも言われて有名なロビーのシャンデリアさえ、ちゃんと見た事が無かったんだ。
 
 
 だけど、これからはガキくさい父への反抗心や、くだらないプライドは捨てる。

 
 ようやく、俺は自分から動くと決めた。

 俺だけがのほほんと、誰かが解決してくれるのを待っていて、いいわけがないだろ。
 ダニエルはもちろんだが、彼女の叔母上の手も煩わせたくない。

 俺が、ペンデルトンが動けば、モーリス卿に迷惑をお掛けするかもしれないが、溺愛する妹がこの件から手を引く方を、あのひとは賛成するはずだ。


 父に会うために、ベッドから起き上がる。

 彼女に対する責任を取る方法は何なのかを考えながら。
< 176 / 289 >

この作品をシェア

pagetop