まだ誰も知らない恋を始めよう
 わたしは少しも匂いを感じないが、叔母からすると触りたくもない、近寄りたくもない位の悪臭がしてるのか。

 わたしの読み取る力も勝手に入ってくるのだから辛いけど、それ以上に嗅ぐ力は難儀だなぁ、と気の毒に思う。
 人混みになんか、怖くて絶対に近寄りたくないだろう。


「それ、早く片付けて、バッグごと玄関まで置いてきて。
 話はそれからよ……あーっ、あんなの嗅がされて……頭痛くなる」

 加えて、見たくもないのか、顔を背けながら。
 叔母は、玄関を指差した。


 叔母の指示通りにバッグを置いてきたのに、リビングに戻ってきたわたしに距離を取られたままなのが悲しい。


「あの、ごめんなさい。
 叔母様がそんな力をお持ちだとは知らなくて……あの、あれは……」

「駄目だわ、貴女にも微かにだけど匂いが移ってる。
 ダニエル、あの臭いの人物と会ってるのね?
 その人とは親しいの? 好きなの?
 あのね、本当はこんな事は可愛い姪に言いたくないけれど、これ程の悪臭をさせてる人とお付き合いを続けるのは、絶対に反対よ」


 叔母がわたしの左手薬指の指輪を見ていたけれど、それよりも言われた事の方が驚いた。


 臭いの人物? あの紙片の持ち主はメイトリクスよ?

 わたしが会ってる?

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