まだ誰も知らない恋を始めよう
 泣き落としは嫌だったから、下を向いたわたしの肩に、叔母の手が置かれた。
 

「それでは、こちらからお願いしましょうか。
 どうぞ、わたしに協力させてください」

「えっ?」

 頭を上げると、叔母は笑顔だった。


「兄さんに恩返しと、貴女達にお詫びがしたいから」

 叔母が言う兄さんは父の事だが、恩返しの意味が分からない。
 母が亡くなる前から、何かとわたし達を気遣って世話をしてくれたのは叔母だった。
 その叔母に対して、父は母の葬儀後あろうことか
「もう余計な真似はするな、2度と顔を見せるな、出入り禁止だ」と一方的に突きつけた。
 それこそ、恩を仇で返したのは父の方だ。


「後から気付いたのよ。
 あれを言われて、わたしは彼と一緒になれたから。
 留学を終えて帰国する彼にプロポーズされたけれど、国を出る勇気が無くて。
 幼い貴女達の面倒を義姉の代わりに見なくちゃいけない、と言い訳にしてたの。
 兄さんに、貴女達に構うなと突き放された事で、わたしは動く事が出来た。
 でも結局4年で駄目になったけど」

 父が叔母に喧嘩を仕掛けたのは、自分自身の幸せを優先して欲しかったから?


「マッカーシーの力なんて余計なものがあるせいで、母国に戻ったら彼の嫌な部分が出てきたのが分かった。
 意地で彼の良いところだけを見ようとしたけど、年々彼の匂いに耐えられなくなった」


 留学先では隠されていたのに、帰国したら本性が出てきた、って事か……


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