まだ誰も知らない恋を始めよう
 いや、待て、焦るな、落ち着け。
 昨日の事を思い出せ。
 ダニエルが会ったのは誰だ?
 眼鏡を掛けてなかった彼女がメイトリクスに会えば、直ぐに分かったはずだ。
 
 そんな家に俺を置いて帰るはずが無い。
 だから、彼女が昨日会った人間は、違う。
 違う、メイトリクスじゃない!


─ ダニエルが昨日顔を見た人間の中にメイトリクスは居ない

「そうだ、お前の母も、グレンダもサミュエルも違う、とダニエル嬢は断言した。
 お茶を出したのは誰だった? そのメイドもメイトリクスじゃない。
 後は警備のビリーと移動車を運転していたダックスも大丈夫だな」

─ お茶を出したのはエイミー

「じゃあ、エイミーも除外でいいな。
 ……明日、ダニエル嬢とレディ・アリアを招いて、内輪の夕食会をする。
 開始時間前には用事を作り庭師達は玄関前に、内の使用人達は出迎えに並ばせる。
 招待するのは、会長とこの2週間以内に面会した一族の者。
 その中には今日欠勤していたロジャーも含まれる」

 明日皆を集める……
 もし、そこでダニエルがメイトリクスを見つけられたら。


「他の手配も済ませた。
 この件は緊急を要する。
 明日だ、明日には解決しなければならない。
 フィン、俺はお前を取り戻すぞ、絶対に」

 
 父が俺を、フィンと呼ぶのも。
 自分の事を、俺、と言ったのも。

 何年ぶりだろうか。

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