まだ誰も知らない恋を始めよう
 ここから徒歩で庭園へ回り、そこからは4人乗りの小型移動車で森を抜けて、ペンデルトン邸へ行く、はずだったが。
 わたし達は回転ドアの前で待ち構えていたバーグマンさんに、一旦ホテル内に入って欲しいと声を掛けられた。

 一瞬、予定外の事に身構えてしまったけれど。
 大丈夫、昨日のバーグマンさんはメイトリクスじゃなかったし、今も成り替わられてはいない、正真正銘のご本人だ。


 昨日までは本人であっても、今日もそうだとは限らない。
 昨夜、ペンデルトン氏から夕食会に招かれた事で、何かを感じ取ったメイトリクスは次のターゲットに変身した可能性もある。

 今夜は、この確認作業がずっと続く。



 バーグマンさんに先導されて、ロビーに足を踏み入れた途端。

「ダニエルさん!」と声を掛けられた。

 濃紺のドレスを着た見知らぬ女性がフロント前のソファーから立ち上がって、こちらに小さくひらひらと手を振りながら近付いて来る。


「あぁ、こちらで待っていらしたんですか」

 バーグマンさんがこう言っているのなら、彼の知ってる人なんだろうけれど。
 わたしの名前を呼んだのは……え!? 

 
 会ったことも無い人だ、と思った美女は彼女の代名詞とも言える、あの有名な赤毛を栗色に染めた魔法士。

 ドレス姿のレベッカ・ヴィオン教官だった。

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