まだ誰も知らない恋を始めよう
 わたし達の会話を聞いていたベッキーさんが小さく、本当に顔を見ただけで、とつぶやいていた。


 両開きの玄関扉の前には、一昨日も会った執事長のサミュエルさんが立っていた。


「ようこそ、お出でくださいました、マッカーシー様。
 旦那様と奥様は、出迎えないと仰せでした」

「はい、こちらから、そのようにしてくださいとお願いしていました」

 良かった、彼もメイトリクスじゃない。


 一昨日訪れた時には、その圧倒される作りに、ドギマギしながら足を踏み入れた玄関ホール(ここだけで、小さなわたしの家がすっぽり収まりそうな広さ!)には、わたしがお願いしていたように、ペンデルトンご夫妻はいらっしゃらなくて。

 その代わり、多くの使用人達が立っていて、わたし達を出迎えた。
 来客の出迎えに、厨房を除く全員が並ぶ事は無いのだろうけれど、今日だけ特別で、わたし達に合わせて、サミュエルさんが並ぶように命じてくれていた。

 ご夫妻に出迎えないでくださいとお願いしたのは、それによって、わたし達はご夫妻にとって重要な客ではない、と彼等に思わせるため。

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