まだ誰も知らない恋を始めよう
 ベッキー視点に映らないマーレイがどうしているのかは不明だが、彼女が見ないという事は、心配する必要は無いのだろう。



「己に掛けた魔法が、別の魔法で上書きされ、体内で混ぜられる苦痛は相当なものです。
 魔力を『侵食される』のですから」


 ベッキーさんの言葉通り、カレラであった者は痛みに耐えきれず気を失って、その正体を晒した。
 そこに現れたのは、くすんだ灰色の髪をした痩せた若い男だった。
 
  
 そこからは呆気ない位で、気を失っているメイトリクスに、ベッキーさんは更に両手首に太い鎖を掛けたが、その鎖はあっと言う間に吸い込まれるように、奴の身体の中に消えた。


「隷属の鎖はわたしが解かない限り、こいつからは切れません。
 これでファニアスさんに掛けた多重魔法を解術するように命じます。
 皆さんが思っていたような派手な戦いにならなくて、すみません」


 ベッキーさんの申し訳なさそうな気持ちが俺達に伝わるが、確かにベッキーさんは、真正面から戦いたくはない、と言っていた。


「わたしが攻撃を繰り出せば、魔法庁が察知してしまいます。
 今回は内々で来ていますので、これで治めていただけますか?」

 
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