まだ誰も知らない恋を始めよう
 そう言われると、何も文句は言えない。
 俺が魔法庁には依頼したくない、と言い張ったから、父は古い知り合いだったベッキーさんにお願いしてくれ、そのうえダニエルの名前を出さずに処理すると請け負っても貰えた。

 ベッキーさんは、それはもう充分過ぎる位に、こちらの事情に合わせてくれているのに。
 叔母を殺した男をもっと痛い目に遭わせて貰いたかった、と思う俺の本質は残酷で勝手過ぎるのだろうか?


「それでは、これからメイトリクスを覚醒させますから。
 フィニアスさん、どうぞこちらへいらしてください」

 ベッキーさんが俺を呼び、俺達は温室へ向かった。


 温室では、気を失ったメイトリクスと同様に、倒れているマーレイが居た。
 そして、ガーデンチェアには祖父と父が揃って頭を抱えて座り込んでいた。


「アリアさん、申し訳ありません。
 至急に執事長さんに連絡して、ルディア夫人の保護をお願いしてください」

「保護? 夫人はご親族の方々とホテルの方へ行かれて、特に危険は無いのでは?」


 ベッキーさんの指示に、アリアさんは驚いていた。
 母の保護とは一体何だ?


< 264 / 289 >

この作品をシェア

pagetop