まだ誰も知らない恋を始めよう
 わたしには手の届かない高級な牛肉と、フィニアスは同じ。
 贅沢に慣れてしまえば、この人に慣れてしまえば……駄目だ、考えるな。


 そんな不毛な思いを振り払って、食事を済ませて。
 今日もフィニアスをホテル前までの終バスに乗せるために、とっとと情報交換をする。


「貴方が気になっているのは、ロジャー・アボット?」 

「ああ、君も? 気付いてた?」

「……あれからずっと考えていたの。
 貴方の事情を聞いていたら、あれ? と思ったので」

「うん……俺も昨日君から噂の出所を聞いて、ダニエルの友達のステラさんだったよね。
 彼女に会ったけど……よく分からなくて」


 そうだった、最初フィニアスはステラに会うのに気が乗らない感じだったのに、ロジャー・アボットの名前を出したら、会う気になった。
 あれは単に、自分が私以外からは見えない事の証明ではなくて、従兄のロジャーの何かを確かめる為に恋人のステラに会ったのだと、昨夜気付いた。
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