内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
(ああ、もう!)
藍里は早足で廊下を歩きながら、ひたすら恥じ入る。
(キスされると思うなんて……!)
ニヤニヤ顔の郡司のセリフが頭の中をリフレインする。
『チューでもしとくのが一番だと思うけど』
穴があったら入りたい。それも二度と出てこれないくらい深い穴がいい。
(郡司さんが変なことを言うから……!)
ちゃんと弁えていたはずなのに郡司に惑わされて、あらぬ期待を抱いてしまった。
蒼佑が藍里と結婚したのは璃子を育てるためであり、ふたりの間に激しい情熱が芽生えたのは遠い昔の話だ。
それとも、焼け木杭に火がつくなんてことが、あるのだろうか?
(蒼佑さんは私のことをどう思っているんだろう)
璃子のおまけとして母親役に徹しておけばいいのに、心臓の鼓動はまだおさまりそうにない。