内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。

 ◇

「うーん。これもだわ」

 目録作りを開始して二週間。コレクションルームで目録作りに勤しんでいた藍里は桐箱を開けた瞬間、がっくりと肩を落とした。
 箱の中には鳳凰と菊が描かれた見事な七宝焼の壺が収められている。
 それほど状態は悪くないのだが、どこかにぶつけてしまったのか縁の一部が割れている。
 同じ状態の焼き物が、この一週間で三箱も見つかっている。
 このまま眠らせておくには惜しい代物ばかりだ。
 幸いなことに割れた破片も箱の中に残されていたため、専門業者に依頼すれば修復できる可能性が高い。

(蒼佑さんならきっと賛成してくれるよね)

 彼の美術品に対する情熱は本物だ。
 藍里は目録作りの手を一旦止め、修復が必要な焼き物のリストを持って蒼佑の執務室を訪ねた。
 コレクションルームから廊下を真っ直ぐ歩いた東側の一番奥の部屋が蒼佑の執務室だ。
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