内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
「蒼佑さん、入ってもいいですか?」
「ああ」
執務室の扉をノックすると、すぐに返事があった。
扉を開けて中に入ると蒼佑はデスクの前に座り、難しそうな顔でパソコンを睨んでいた。
しかし、藍里の顔を見るなり、ふっと表情を和らげる。
「どうした?」
「お仕事中ごめんなさい。コレクションにいくつか問題があって……」
藍里はリスト片手に修理が必要な焼き物の状態について事細かに説明した。蒼佑はその間、何度も相槌を打ち、熱心に話を聞いてくれた。
「わかった。藍里の言う通り修理に出そう」
「よかったあっ!」
熱意が通じ賛同してもらえた藍里はホッと胸を撫でおろした。修理には当然、お金がかかる。もし反対されたら泣く泣く諦めるしかなかった。
「修理を請け負ってくれそうな工房にいくつか心当たりがあります。あとでまとめてお渡しますね」
「わかった」
そうと決まれば、準備は早い方がいい。藍里の頭の中は修理に必要な手続きのことですぐにいっぱいになった。
「そちらから来てくれてちょうどよかった。貰い物のカステラがあるんだ。よかったら食べないか?」
「うわあ、うれしい!」
蒼佑の提案に藍里は色めきたった。
ちょうどお腹が空いていたところだ。夜の甘味はまた格別の味がする。