内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。

「私もずっと蒼佑さんが忘れられなかった」

 あの日、蒼佑がかけてくれた言葉が、交わした口づけが空白だった心のキャンバスを埋めてくれた。

「藍里……」

 顔を上げれば、あの夜と同じように蒼佑の瞳の中に自分が映る。
 藍里が目を瞑ると、唇がそっと下りてくる。
 最初は様子を窺うように軽く何度も。降りやまぬことのないキスの雨に晒される。

「ん、んっ……!」

 藍里は蒼佑のシャツを掴み、三年の月日を埋めるように繰り返されるキスに夢中で応えた。

「もう二度と離さないから」

 貪欲な決意がこもる宣言と共に額に口づけられ、頭の芯が痺れていく。
 彼の腕の中、夢うつつで温もりに浸っていると、ボトムスのポケットに入れていたスマホが突如震えだした。
 ハッと我に返り、慌ててスマホを取り出す。
 子ども用の見守りカメラからの通知だ。ベッドルームで寝ている璃子が目を覚ましたらしい。
 冷静さを取り戻すと、キスに没頭していたことが急に恥ずかしくなってくる。

「い、行かなきゃ……!」

 藍里は蒼佑の逞しい胸板を押し退け、璃子が眠るベッドルームまで一目散に廊下を駆け抜けた。

(しっかりしなきゃ……!)

 もし通知がこなかったら、あのまま蒼佑とキスの先まで進んでいたかもしれない。
 母親としての役目を放棄するつもりはない一方で、続きを望んでいる自分もどこかにいる。
 板挟みになった藍里はひたすら反省するばかりだった。
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