内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
(娯楽があふれている時代だからこそ、色褪せない価値のあるものが必要だ)
そこで、蒼佑はじっくりと時間をかけ、役員たちの説得を試みた。
最終的に、リニューアル事業は取締役会でも承認され、父からは『そこまで言うならやってみろ』と、この件については全権を任された。
二年近くかかったリニューアル工事は最終段階に入っている。
まもなく関係者と報道陣を招いてのプレオープンと、記念式典が行われる見込みである。
――すべてが順調に進んでいるはずだった。
蒼佑はパソコンを開き秘書から送られてきた報告書を眺めるなり、表情を曇らせた。
(まずいな。先週からまるで数字が変わらない)
蒼佑が見ているのは、三角美術館の入場前売り券の累積販売数の推移を示すグラフだ。
リニューアルオープンの日付が発表されてからは堅調に推移していたが、ここ数週間で数字の上昇率があきらかに落ちている。
このまま、なにも対策を講じなければ、初年度の来館者数も売上目標も達成できない恐れがある。
(なんとかしなければ)
蒼佑はただ数字を睨むばかりだった。