内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
「璃子、そろそろ寝ようか」
風呂を済ませたあと、璃子は藍里に手を引かれ、ベッドルームに入って行った。
ひとりリビングに残された蒼佑はソファに身体を預け、壁に飾られた大空を駆ける鷹の絵を仰ぎ見る。
険しい瞳に憂いと光を宿した鷹は今にも動き出しそうな躍動感がある。油断していると飲み込まれそうになるくらいの迫力だ。
誰の手も及ばない場所から世界を見下ろせるなんて羨ましい。
(さすが、海老原画伯だ)
彼の絵には独特の魅力があり、蒼佑は現実から切り離され、つい絵の世界に入り込んでしまう。
「蒼佑さん?」
寝かしつけから戻ってきた藍里に肩を叩かれ、蒼佑はようやくこちらの世界に返ってきた。
「璃子は寝たのか?」
「はい」
「そうか」
「なにか悩み事ですか? こんなに絵に見入っているなんて……」
「なんでもないよ」
そう答えると、藍里は怪訝そうな顔つきになった。