内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
「よかったら話してください。私ではお役に立てないかもしれないですけど、話を聞くことぐらいはできますから」
心配をかけまいと変わらぬ態度を心がけたはずどが、逆に怪しまれたみたいだ。
蒼佑はしばらく悩んだ末に、藍里に正直に打ち明けた。
「今度リニューアルオープンする三角美術館の前売り券の売上が予想より悪いんだ。それで少し考え事を」
「そんなに悪いんですか?」
「リニューアルするからには、『新しい価値』を提供しなければならない。対外的なアピールがもっと必要だった。俺の落ち度だ」
蒼佑にはひとつの理想がある。
――フィレンツェのように、歩く美術館と言わしめるような街づくりがしたい。
そのためには、美術館周辺の再開発を推し進める必要がある。
三角美術館のリニューアルが成功したというビジネスイメージは必要不可欠だ。
(出だしの不調は一年かけて取り戻すしかない)
頭の中で今後の展開をあれこれ模索していると、ずっと何か考え込んでいた藍里がおもむろに口を開く。
「あの……大空を駆ける鷹の絵を展示したら、『新しい価値』をアピールすることになりませんか?」
それは思いも寄らぬ提案だった。