内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。


 ◇

 コレクションルームで目録作りに勤しむ藍里のもとに蒼佑がやって来たのは、公園へ遊びに出掛けた翌週のことだった。

「三角美術館のプレオープン式典ですか?」
「ああ、『妻』として同行してくれ」

 蒼佑は『妻』という部分をあえて強調した。
 結婚して四か月が経つが、公の行事に参加してほしいとお願いされるのは初めてだ。

「璃子はさすがに連れて行けませんよね?」
「その日はベビーシッターを呼ぶつもりだ」

 さすがは蒼佑だ。懸念事項はすでに抜け目なく対策されている。

「大空を駆ける鷹がどんな風に展示されているか藍里に確かめてもらいたい」

 蒼佑は『多くの人に見てもらいたい』という藍里の願いを受け、即座に行動に移した。
 各所に調整し展示場所を確保すると、専門の業者の手によりリビングにあった絵は外され、三角美術館へ運ばれていった。
 蒼佑にすべて任せていたので、藍里は絵が現在どういう状況にあるのか知らない。
 彼の言う通り、藍里には父の絵の行く末を見届ける義務がある。

「わかりました。私も一緒に行かせてもらいます」
「そうか。ありがとう」

 同行を承諾すると、蒼佑はあきらかにホッとした顔つきになった。
< 121 / 187 >

この作品をシェア

pagetop