内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
「じゃあこのワンピースにしようかな。合いそうな靴とバッグってありますか?」
「はい! もちろんご用意しております」
担当者は即座にラウンドトゥのパンプスとオフホワイトのクラッチバッグを差し出した。
藍里は姿見の前に立ち、自分の全身をくまなく点検した。
担当者の見立ては完璧だった。
美術館の静謐な空気を邪魔しない、地味すぎず派手すぎず、蒼佑の隣に並んでも見劣りしない装いに仕上がったと思う。
おかしなところがあるとすれば、藍里が身の丈に合わない高級品を身に着けているという点だ。
しかし、蒼佑の妻として振る舞うならこれも必要な出費なのだろう。
「じゃあ、これにします」
「ありがとうございます」
「アクセサリーはいかがいたしましょうか?」
藍里が購入を決めたワンピースはデコルテが広く開いたデザインだ。ネックレスをつけなければ、少し寂しい印象になってしまう。
子育てには不要だけれど、公の場に出るならアクセサリーは必須だ。
「アクセサリーなら旦那様から預かってます」
小牧はそう言うと、別の部屋からアンティークのジュエリーボックスを持ってきた。
蓋を開けると中にはアンティークのブローチやパールのネックレス、他にもうっとりするようなジュエリーが並んでいた。