内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
「わあ! 素敵!」
「旦那様の亡くなったおばあ様のものですが、気に入るものがあれば使ってよいと。もちろん、奥様が気に入ったものがあれば、購入していいそうです」
粋なサプライズに心が躍る。
藍里は彫金のイヤリングとアンティークパールの一粒ネックレスを借りることにした。
アクセサリーを身に着けると、華やかな印象がぐっと強まる。
コーディネートがすべて決まり、早速購入手続きが始まる。
担当者が電卓を弾く間、藍里は居心地の悪さを感じていた。
「お支払いは……」
「奥様、大丈夫ですよ。請求書はあとから旦那様宛に郵送されますから」
試着の最中、値段や支払いの話を一切されなかったが、外商はそういうものだと小牧にこっそり耳打ちされる。
その日の夜、藍里はコレクションルームにやって来た蒼佑に改めて礼を言った。
「おばあ様のジュエリーを貸していただいて、ありがとうございます」
「あのジュエリーボックスはもともと藍里のものだよ。祖母からの遺言で、俺の妻に譲ることになっている」
かしこまったように『妻』と呼ばれると、つい背中がむずがゆくなる。まだ妻らしいことはなにもしていないのに。
「次は俺からジュエリーを贈るよ。ブルーダイヤモンドがいいな。きっと似合う」
蒼佑はきょとんと目を丸くする藍里の額に口づけを贈った。