内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
「新しくなった美術館を案内するよ」
三角美術館は今から五十年前に蒼佑の祖父により建設された私立美術館である。企業美術館の先駆けとも呼ばれ、累計来館者数は百万人を超えている。
もちろん、藍里も何回も訪れたことがある。
リニューアルの指揮を執ったのは、財団の理事を務める蒼佑だ。
老朽化による設備の交換、耐震補強工事に加え、これまでに美術館のイメージを刷新し、誰もが気軽に来られるよう工夫が凝らされている。
常設展はもちろん、カフェやミュージアムショップが新設・増床され、美術館そのものを楽しめる空間を目指したそうだ。
全面改装されたギャラリーでは新進気鋭の芸術家による個展も定期的に開催される予定らしい。
「すごいですね」
美術館の中を案内された藍里は、あまりの素晴らしさにほうっと感嘆のため息をついた。
「来る人を選ぶようなお堅い空気の美術館ではなく、もっと気軽にアートを楽しめる場所にしたかったんだ。実は藍里と出会ったあのカフェがヒントになったんだ」
誰もが気軽に楽しめる場所を作りたいという蒼佑の想いに藍里は深く頷いた。
たしかに美術鑑賞を敷居が高いと感じる人もいる。大勢の人に来てもらうためには、従来の固定観念を取り除く必要がある。