内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。

「藍里? どうした?」
「アトリエに保管したままだったことを反省していました」

 きっと正式オープンした後は、さらに多くの人が父の絵に魅せられるだろう。
 思い出に縋るためだけにアトリエに置きっぱなしにしていた自分が恥ずかしい。もっと早く決断するべきだった。

「素敵な機会をくださって、ありがとうございます。きっと亡くなった父も喜んでいると思います」

 お礼を言うと蒼佑は一瞬面食らっていたが、すぐに元通りになった。

「礼を言われるくらいなら、別のもので返してほしいな」
「別のものって?」

 ミスミビルディングの御曹司であり、地位も名誉もなにもかも持ち合わせている蒼佑に、藍里が返せるものなどあるのだろうか?
 ただでさえ、与えてもらうもの方が多いのに。
 蒼佑は多くは語らず、含みのある笑みで藍里を見下ろすばかりだった。
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