内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
「君も来ていたのか」
「ええ。三角美術館のリニューアルオープンを私も心待ちにしていましたから」
麗佳はルージュを引いた唇を引き上げ、余裕たっぷりで藍里に微笑んだ。
「こんにちは」
「こ、こんにちは……」
対する藍里は麗佳を前にして、たじろぐばかりだ。
「私たち、今きたばかりなんです。新しくなった美術館の中を案内してくださらない?」
麗佳は妻だと紹介された藍里の存在などおかまいなしに、蒼佑の左腕にしなだれかかった。
まるで絵の中から飛び出してきたみたいな美男美女。
鉛玉を飲み込んだように、一気に胃が重たくなる。
「申し訳ないが、このあとは式典の準備があるんだ」
蒼佑は麗佳を振り解くと、今度は猪口に向き直った。
「すみません、猪口社長。我々はそろそろ……」
「いやいや、今日は仕方ないよ。今度また食事に行こう」
「はい」
蒼佑は麗佳のお願いをやんわりと断り、藍里を連れその場をあとにした。
しかし、胃のムカつきは猪口社長たちと別れた後も続いた。