内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。

(彼女とはどういう関係なの?)

 藍里は喉から出かかった質問を懸命に飲み込んだ。
 我が物顔で振る舞う麗佳はあからさまに藍里を挑発していた。
 一度は結婚の二文字が封じられるくらいだ。相当親密だったのは間違いない。
 けれど、ふたりは結婚しなかった。
 てっきり双方納得の上で破局を選んだのだと思っていたけれど、麗佳は違うみたいだ。
 彼女がここにやって来たのは偶然? それとも、なんらかの意図があって?
 これ以上は恐ろしくて踏み込めそうもない。

(動揺を悟られたくない)

 ひとりになりたいと思っていたまさにそのとき、ミュージアムショップが目に飛び込んでくる。

「あの、すぐに戻りますからミュージアムショップに寄ってきてもいいですか? 璃子になにか買って帰りたくて……」
「ああ、構わないよ」

 蒼佑の許可をもらった藍里は、小走りで駆けていった。

「三角副社長、この度は……」

 藍里が離れたそばから、蒼佑は誰かに話しかけられている。今日の彼はいつにもまして多忙だ。これなら藍里の異変に気づかないだろう。
 藍里はふらふらした足取りでミュージアムショップに足を踏み入れた。
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