内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
(この人はなにを言っているの……?)
藍里は絶句した。
まるで、彼女の方が愛人に手切れ金を渡す正妻のような口調だ。実際は逆なのに、なぜか藍里の方が悪いことしている気持ちにさせられる。
「なぜ、あなたが?」
「なぜ? おかしなことを聞くのね。彼を愛しているからに決まっているじゃない。私は心が広いから、一度の過ちくらいは許してあげるの」
歌うように蒼佑への愛を宣言する麗佳は自分で自分に酔っているみたいだ。
あたかも、この結婚は間違っていて、本当は自分が蒼佑と結婚するべきだと言わんばりだ。
「そうよ! 私たちいいお友達になれそうじゃない? だって同じ人を愛しているんだもの」
だんだんと怖くなってくる。
蒼佑を想い爛々と輝く瞳には目の前にいる藍里が映っておらず、どこか狂気を感じる。
なにか言い返さなければと思うのに、うまく言葉が出てこない。
「あ、あなたがなんと言おうと、私は蒼佑さんの妻です!」
「ふふっ。あなた自分が彼の妻に相応しいと思っているの?」
苦心して発した言葉も、あっさりと踏みにじられる。
麗佳は精いっぱいコーディネートをしてきた藍里を鼻で笑った。
見栄を張りたかった気持ちを見透かされた気がして、羞恥で顔が熱くなっていく。