内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
「ねえ? 海老原画伯の娘ということ以外にあなたに価値があるのかしら?」
彼女の意見はもっともだった。海老原清光の娘というだけでなんの後ろ盾もない藍里と、建設会社の社長令嬢である麗佳では雲泥の差がある。
藍里が居たたまれなくなり、俯いたそのときだ。
「藍里、まだここにいたのか。戻ってくるのが遅いから心配した」
「あら、蒼佑さん」
麗佳は蒼佑が姿を現すと、ぱあっと顔を輝かせた。
麗佳がいるとわかった途端、蒼佑の顔が強張り苦虫を噛み潰したような渋い表情になる。
「妻がなにか?」
「なんでもありません。少しお話していただけです。ね、藍里さん?」
彼女は何事もなかったかのように、藍里に同意を求めた。
とても辛辣な言葉で藍里を地獄の谷底へ突き落としたあととは思えない。
蒼佑は藍里の手を取り、自分のもとへ引き寄せた。
「行こう。藍里にも挨拶したいと言う人が何人か待っているんだ」
「またね、藍里さん」
再会を約束する別れの挨拶に身震いする。
そう遠くないうちに彼女は再び藍里の前に現れるつもりなのだろう。
ぐさりと突き刺さった棘は、いつまでも抜けなかった。