内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。

「あの鷹の絵を生で見られるなんてうれしいな〜。ありがとう、宗像さん!」
「子ども向けのワークショップも開催予定なので、お子さんと一緒に参加してください」

 藍里はその場でワークショップの申し込み方法を教えると、リフレッシュエリアの前で郡司と別れ、自分のデスクに戻った。
 椅子に座り直し午後の仕事の確認に精を出していたが、ふと、言い慣れていない『夫』という単語に人知れずため息をこぼす。

(『夫』か……)

 ため息の原因ははっきりしている。

 ――私は蒼佑さんと釣り合っていない。

 プレオープンでひと悶着あった際に、麗佳は的確に藍里の痛いところを突いていた。
 それは藍里自身、漠然と思っていたことだったからだ。
 そもそも蒼佑と藍里が結婚したのは、璃子の親権を争わないためである。
 もしもあのとき璃子を授からなかったら?
 藍里が海老原清光の娘ではなかったら?
 蒼佑は藍里と結婚しようなんて最初から思わなかったかもしれない。
 偶然に偶然が重なった結果、結婚しただけで藍里自身に魅力があるかと言われると途端に自信がなくなる。
 藍里とは対照的に麗佳は自信に満ち溢れていた。
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