内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
(私より麗佳さんの方が蒼佑さんに相応しいのかもしれない)
時間が経つにつれて、そんな想いが強くなり、頭の中をぐるぐると回り続けている。
後ろ向きな自分で自分がほとほと嫌になりそうだ。
目の前にある仕事にもいまいち集中できないまま、午後の就業時間がひたすら過ぎていく。
なんとか最低限の仕事だけはこなそうと懸命にパソコンに向かっていた藍里の耳に、信じられない知らせが届く。
「宗像さん、保育園から電話です」
「え?」
突然、璃子の通っている保育園から連絡があったのだ。
呼び出しを受けた藍里は会社を早退し、とるものもとりあえず保育園へ向かった。
息せき切って園舎へ駆け込み一目散で向かったのは、璃子のいる二歳児の保育室ではなく職員室だった。
「あら、藍里さん。こんにちは」
麗佳は堂々と足を組みながら、職員室のソファに座っていた。
「どうしてあなたがここに……」
「どうしてって……。璃子ちゃんを迎えに来たに決まっているじゃない」
麗佳は当たり前のようにあっけらかんと言い放つ。自分が常識外れな行動をとっているとまるで自覚がないようだ。
保育士の話では、麗佳は三時頃ふらりとやってきたそうだ。
許可証のない保護者以外には引き渡せないと何度も説明したが、自分が新しい保護者だと言い張り居直ったらしい。
保育士たちは困り果てた結果、藍里に連絡したという。
藍里はトートバッグを握る手にぎゅっと力を込め、ソファに座る麗佳に意を決して伝える。