内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
「藍里、悪いけどここで待っていてくれ」
「え? あの! 蒼佑さん!?」
蒼佑はスーツケースを返す代わりに藍里が持っていたパスポートを取り上げ、先ほどのグランドスタッフを追いかけた。
二言ほど会話を交わすとグランドスタッフの上司らしき人がどこからともなく現れ、蒼佑は別室に連れて行かれた。
待ちぼうけの藍里は空いていた椅子に座り、ぼうっと彼を待つしかない。
(どこに行ってしまったのだろう)
蒼佑を待つ間にカウンターの受付も打ち切られてしまった。すぐに次の手立てを講じなければ日本に帰れない。
何度目かわからないため息をついた、まさにそのときだった。
「お待たせ」
藍里のパスポートを持った蒼佑が戻ってきたのが見えて、即座に椅子から立ち上がる。
「一体どこに――」
「明日の午前中の便がとれた」
蒼佑はそう言って藍里にパスポートと航空券を渡した。ぎょっとしながら航空券に視線を落とせば、発着の日付はたしかに明日の十時になっていた。
藍里は何度も目を瞬かせた。カウンターには今も大勢の人が並んでいるというのに、こうもあっさり簡単に席を確保できるなんて、信じられない。
「明日の午前中……」
無事に座席を確保できたというのに、藍里の表情はまだ固い。
昨日まで宿泊していたホテルはすでにチェックアウトしたあとだ。初夏の観光シーズンで今からホテルの予約を取り直せるものだろうか。
しかし、贅沢は言っていられない。