内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
「藍里……」
譲治は悲しそうに眉を下げたかと思うと、しょんぼりしながら藍里に語り掛ける。
「藍里が不安になる気持ちもわかる。でも、これは必要なことなんだ。いいじゃないか、絵の一枚や二枚ぐらい」
「もういいです」
少し調べれば大空を駆ける鷹の絵が三角美術館に展示されていることはすぐにわかるはずだ。
譲治は絵そのものには興味がなく、いくらで売れるかにしか関心がないのだ。父の絵が単なるお金のなる木にしか見えていない。
(血のつながった兄弟なのにどうしてっ……)
実の兄の絵を売る譲治には罪悪感が一切ない。なにを言っても伝わらない。根本的に理解しあえないのだ。
悲しい現実に藍里はそっと目を伏せた。もうなにも考えたくなかった。
「また来るよ」
黙りこくった藍里にいくら話しかけても無駄だと悟ったのか、譲治は席を立ち帰って行った。
やり場のない怒りと情けない思いで胸がいっぱいになり、藍里を深く落ち込ませた。