内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。

「もしもし」
『藍里か?』
「どうしたんですか?」
『藍里の声が聞きたくなって。璃子はもう寝ている?』
「はい。今日もぐっすりです」
『そうか……。璃子の声も聞きたかったのに』
「ふふっ」

 残念そうな蒼佑の声に、自然と笑みがこぼれる。寂しさに耐えられないのは、蒼佑も同じのようだ。

『ひとりでいるとなんだか落ち着かないよ。いつもふたりと一緒だから』

 三人で暮らし始めてから、こんなに長く離れているのは初めてだ。寂しさを感じるのは蒼佑の生活の中に藍里と璃子が溶け込んでいる証拠だろう。

「お仕事は順調ですか?」
『ああ。これなら予定通り帰れそうだ』

 蒼佑は現在、バンコクに建設予定の大型商業ビルの土地買収に関して各所との交渉に赴いている。三角美術館のリニューアル事業がひと段落した今、彼のもとには新たな仕事の依頼が次々と舞い込んでくる。

「残りのお仕事もがんばってくださいね」
『ありがとう』

 仕事で疲れている蒼佑の負担にならないうちに激励の言葉で締めくくると、藍里は通話を終えた。

(蒼佑さんが出張から帰ってきたら相談してみよう)

 蒼佑の手を煩わせるのは心苦しいけれど、これ以上は藍里の手に余る。
 今の藍里はあらゆるものに孤軍奮闘するシングルマザーではない。海の向こう側から様子を気にかけてくれる夫がいる。
 ひとりで解決できないのなら、蒼佑を頼るべきだと教えてくれたのは彼自身だ。
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