内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。

「ああ、そんな……。なんてことだ……」

 譲治は落胆のあまり、がっくりと肩を落とした。
 藍里の予想通り、またしても絵をこっそり持ち出すつもりだったのだ。
 目録完成の余韻はとうの昔に消え去っていった。
 お灸を据える意味でもいっそのこと、警察に突き出した方がいいのかもしれない。
 散々煮え湯を飲まされてきた藍里も今回ばかりは庇いきれない――そう思っているのに。
 絵がないとわかり途方に暮れる譲治を見ているとズキズキと心が痛む。
 譲治は藍里にとってはたったひとり残された身内なのだ。甘いと言われても、仏心が顔を出す。

(これで最後にしよう)

 屋敷から摘み出す前に、同情心から藍里は改めて尋ねた。

「どうして叔父さんはすぐお金儲けの話に乗ってしまうの? 叔父さんの言うような儲け話なんて、そうそうないのに。身の丈に合った生活を送ろうとは思わないの?」

 譲治が投資に傾倒するようになったのはここ数年の話だ。
 それまでは、普通の会社員として暮らし、質素ながらも堅実な生活を送っていたはずだ。
 なぜそこまで投資に固執するのか、藍里にはさっぱり理由がわからなかった。
< 168 / 187 >

この作品をシェア

pagetop