内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。

「……これまでの人生、碌な目に遭ってこなかった」

 譲治はポツリポツリと語りだした。

「兄さんは昔から絵が抜群に上手かった。コンクールに出せばいつも賞をもらっていた。それなのに私は勉強もかけっこもビリばかり。常に脚光を浴びる兄さんのせいで、弟の私はいつもおまけ扱いだ」

 譲治の口から語られる兄弟の確執は、当事者だからこそ語れる生々しさを伴っていた。

「藍里は知らないだろうが、俺も画家を目指していた時期があったんだよ。仕事そっちのけで来る日も来る日も絵を描いて……。でもそんな私に妻も子どもも愛想を尽かして出て行ってしまった」

 藍里も譲治に離婚歴があるのは知っていたが、その理由までは思い至らなかった。

「投資会社の人達は、金さえもっていけば俺を褒めてくれるんだ! 『すごい』『立派だ』って私を神様みたいに扱ってくれる。兄さんが浴びていた名声に比べればちっぽけなものだが、私には必要なんだ!」

 譲治は悲痛な表情で訴えた。
 父の絵を売ってまで金策に走るその裏側には、偉大な兄の存在を妬ましいと思う気持ちがあったのだ。
 単なる金儲けのためだけじゃないとわかり、なんと返したらいいのか言葉が見つからなくなる。
 それでも、父の絵を売るのを辞めさせなければならない。
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