内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
「お、夫が中にっ……!」
消防隊はすぐさま消火の準備を始めると、速やかに屋敷の中へ突入する。
「ママ~?」
「璃子っ!」
なにがあったのかまだわかっていない璃子を抱きしめながら、 藍里はその場で手を組み神に祈った。
(どうか無事で……!)
彼の無事をただ待っている時間は、地獄のように長かった。
永遠にも思えるほどのときが経った数十分後、消防隊のシルバーの防護服に続いて憔悴した蒼佑が隊員に支えられながら屋敷から出てくる。
「蒼佑さん!」
藍里はすぐさま蒼佑に駆け寄り、彼の無事を確かめた。
「藍里……」
蒼佑はすぐさま自分が無事だと示すように、片手を上げる。声に力はなく激しく咳き込む様子を見せるが大きな怪我はなさそうだ。
「絵は無事だ」
蒼佑は左腕に抱えていたものを藍里に差し出した。ジャケットに包まれていたのは、渚の母娘の絵である。
フィレンツェで眺めたのと、寸分たがわぬ母娘の姿がそこには描かれている。
たしかに絵は無事だった。けれど、今は――。