内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。

「待たせたな」

 藍里は診察室から戻ってくる蒼佑の姿を発見すると、待合室のロビーにあるソファからすぐさま立ち上がった。

「どうでした?」

 病院に到着してから二時間。時刻はすでに深夜零時を回っている。
 蒼佑の検査が終わるのを待っている間に璃子は力尽き、待合室のロビーの椅子の上で寝てしまった。あちこち連れ回したせいで疲れていたのだろう。
 お医者さんの話では、精密検査の結果、命に別状もなく、二週間ほどでよくなるそうだ。
 定期的な通院と経過観察が必要だが、今日はもう帰っていいとのこと。
 蒼佑からそう説明された藍里はホッと胸を撫で下ろした。

「本当にもう平気なんですか?」
「ああ。咳が少し出るぐらいで、これぐらいすぐに治る」

 蒼佑は藍里を安心させるために抱き寄せ背中を叩いた。今だけは彼の温もりに浸りたくなり、しばし目を瞑る。

「ところで、藍里。なぜ海老原さんがここに?」

 蒼佑は璃子の隣でうつらうつら船を漕いでいる譲治に戸惑いを隠せず、しきりに首を傾げた。
 火事があったせいで彼に詳しい説明をする間もなかったことをようやく思い出す。

「それは……」

 どう説明したらいいのか判断に困り、歯切れが悪くなる。無断で屋敷に侵入していたところ、偶然火事に居合わせたのだとありのまま話すのもはばかられる。
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