内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
「正直に言えばいいだろう?」
急に誰かがふたりの会話に割って入ってきて、声のする方を振り返ると、譲治は大きなあくびをしながら立ち上がった。どうやら、途中から起きていて、藍里たちの会話を聞いていたらしい。
「大空を駆ける鷹の絵を転売しようとしたんだって。まあ、とんだ無駄足だったがな。三角さん、あなた本当に酔狂な人だね。たかが絵のためになんでそこまでするんだい?」
譲治はハハッと小馬鹿にしたように、蒼佑に向かって吐き捨てた。
「……たかが?」
「藍里?」
聞き捨てならないセリフを聞いた藍里は蒼佑から離れると、ツカツカと譲治に歩み寄った。
次の瞬間、パーンと乾いた音が響く。藍里が譲治の頬を思い切り叩いたのだ。
「たかが絵じゃない! 蒼佑さんが火の中から持ち出してくれたのはお父さんが残してくれた家族の絵なの!」
蒼佑が守ってくれたのは単なる絵ではない。
かつては家族の思い出を描いた、そして今は新しい家族の出会いを紡いでくれた大事な宝物だ。
彼はそんな藍里の想いを汲み取ってくれたからこそ、火の中に飛び込んでくれたのだ。
「なんで叔父さんにはわからないの!?」
見向きもしてくれないと、ふてくされる叔父の気持ちもよくわかる。
藍里も会社で海老原清光の娘だとバレたとき、自分にはそれしか存在価値がないように思えた。
藍里よりもずっと長らく父の背中を追い続けていた譲治ならなおさらだろう。