内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
「彼女のご両親に連絡してください。きっと心配していると思うので」
「蒼佑……さん?」
「先日も言った通り、俺は藍里を一生愛すると誓ったし、君と金輪際関わるつもりもない。今後は弁護士を通してくれ」
蒼佑はクルリと踵を返し、パトカーから離れていった。それは明確な拒絶だった。
「待って、蒼佑さん! どこへ行くの? 行かないで!」
麗佳は遠ざかる蒼佑の背中に向かって叫んだ。
「お願い! 待って!」
どれだけ手を伸ばしても、彼は戻ってこない。
麗佳はとうとう手で顔を覆い子どものように、わあっと泣き出した。
蒼佑との結婚が叶わないと知った彼女は現実を受け入れられず、ありえない妄想の中でしか生きられなくなっていた。
そうしないと心の方が耐えられなかったのだろう。
「蒼佑さん」
急いであとを追いかけ声をかけると、蒼佑は自嘲気味に呟いた。
「彼女の本質を見誤った俺の落ち度だな」
「麗佳さんをどうするつもりですか?」
「それは俺達が判断することじゃない」
彼女の罪は犯行現場に設置されていた監視カメラと自白により立証された。
その後の彼女は犯行当時、心神喪失状態だと診断され、二度と我々の前に姿を現さないということを条件に示談が成立した。
刑事事件に発展するのが普通の放火事件では異例の措置である。