内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。

「お疲れさま、藍里」

 ホテルへと戻る車の中、両親への初挨拶を済ませた藍里を運転席から蒼佑が労う。

「私よりもご両親の方が大変だったんじゃないですかね? 璃子もこの通りです」

 璃子ははしゃぎすぎて疲れたのか、後部座席で気ままにお昼寝中だ。
 クルマが走り出してから五分と経たないうちに、チャイルドシートの上でスヤスヤと寝息をたて始めた。

「藍里、ひとつ提案があるんだが……」
「なんですか?」
「本邸での生活がひと段落したら、結婚式をやらないか?」
「結婚式?」
「ああ。俺たちが出会ったフィレンツェで。海老原氏が残した絵と同じ大空と、渚が見える教会でやろう」
「いいんですか?」
「ああ」
「うれしい!」

 璃子にもフィレンツェのあの景色を見せてあげられるなんて夢のようだ。
 藍里の脳裏にフィレンツェの光景がありありと浮かぶ。
 荘厳なドゥオーモ。ライトアップされたヴェッキオ橋。名だたる芸術家が残した素晴らしい絵画たち。
 ひとつひとつが色褪せずにいまだに心の中に残っている。
 あの街を今度は璃子と蒼佑と三人で歩けるなんて、想像するだけでワクワクした。
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