内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。

「ごめん、浮かれすぎだよな。不謹慎だけど、藍里と話す時間が増えて嬉しいんだ。ここまで話が合う女性は初めてで……」

 蒼佑はそう言うと、恥ずかしそうに口元を隠した。

(同じだ)

 蒼佑もシンパシーを感じていたと知り、藍里の心臓がにわかに蝶のような羽ばたきを始める。

「蒼佑さんおすすめのレストラン、ぜひ行ってみたいです」

 おずおずと口にだせば、蒼佑の表情がぱあっと明るくなり、口もとに笑みが浮かぶ。
 スーツケースを部屋に置いたら、蒼佑とふたり夜のフィレンツェに繰り出していく。

(どこに連れ行かれるんだろう)

 一抹の不安があったが、蒼佑が入ったのはホテルの近くにあるごぢんまりとしたカジュアルなレストランだった。
 地元の人たち行きつけといった風情で、店内は明るく活気がある。

「どれにする?」

 テーブルクロスが敷かれた二人席に案内されると、蒼佑はイタリア語と英語が併記されたメニューをテーブルに広げた。

「どれにしようかなあ……」

 美味しそうな料理の写真を眺めているだけで楽しくなってくる。早く決めなければならないのに、つい目移りしてしまう。
 蒼佑はそんな藍里の姿をテーブルに頬杖をしながら見守ってくれた。
 たっぷり五分も悩んだ末に注文した料理がテーブルに届くと、冷めないうちに急いで口に運ぶ。
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