内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
「そうか。嫌だと言うなら仕方ない」
頑なに結婚を拒み口を噤む藍里に対し、蒼佑はとうとう最終手段に打って出る。
スーツの内側にあるポケットから一枚の封筒を取り出し、テーブルの上に置いた。
「これは?」
「大空を駆ける鷹の売買契約書だ」
藍里は慌てて封筒を開け、売買契約書の内容を確認し始めた。
堅苦しい文言の中から、重要な部分を抜き取っていく。
記載された売却価格は一億円。現金一括払いで入金後、一カ月以内に引き渡しと書いてある。
最後に記された譲治の署名と捺印も正式なものに見える。
(信じられない)
顔から血の気が引いていくのが、自分でもわかった。視界が暗くなり、呼吸が速くなっていく。
「金は指定の口座に振り込み済みだ。契約を破棄するというなら、全額返金した上でキャンセル料を払ってもらう」
契約書にはキャンセル料についても、明記されている。
契約破棄に至った場合には、売買価格の一割を支払うとされていた。つまり、一千万だ。
「契約は叔父が勝手にしたことで、私はなにも知りません!」
「契約そのものが無効だと主張するなら、然るべき場所で決着をつけよう」
「そ、んな……」
とりつく島もなく冷たく言い放たれた藍里は顔を伏せ、膝の上においた拳を固く握りしめた。
絶望に頭が支配され、打ちひしがれる。
このままだと、蒼佑に父の絵を渡さなければならない。