内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
◇
引っ越しは璃子の入園と合わせるようにして、三月下旬に行われた。
春の訪れを感じさせる温かい日差しの気持ちいい晴れの日だった。
朝から蒼佑が手配してくれた引越し業者がやって来て、手狭な2LDKの部屋から次々と荷物が持ち出されていく。
(こんなに広かったっけ?)
あらかた荷物がなくなり、がらんとした室内で藍里はしばし物思いに耽った。
璃子が産まれてからずっと住み続けてきたアパートの一室には、そこかしこに思い出が詰まっている。
壁紙の汚れや床の傷にひとつひとつが、子育てに悪戦苦闘した勲章みたいなものだ。
アパートを離れることに寂しさを感じ始めていると、玄関のインターフォンが鳴る。
きっと蒼佑が手配した迎えの車がやって来たのだろう。
「さあ、璃子。行きましょうか」
藍里はそう言って、床にペタンと座り込んでいた璃子を抱き上げた。
「どこにいくの~?」
「新しいお家よ」
感傷に浸る間もなく藍里と璃子は迎えの車に乗り込み、三角家の屋敷へと向かった。
(これからどうなるんだろう)
愛する我が子と父の絵を手放さないために結婚を決めたが、これからどんな生活が待ち受けているのか見当もつかない。