内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。
(まさか私が結婚する日がくるなんて)
シングルマザーとして生きると決めてから、結婚は他人事だと思っていた。
これまで璃子を育てるのに必死だったし、あいにく恋愛をしている時間的、精神的余裕を持ちあわせていない。
(叔父さん、どこに行ってしまったんだろう……)
事の発端になった譲治に何度も連絡したが、電話にも出ないしメッセージの返信もない。
キャンセル料はともかく、売却金だけでも返せないかと住まいを訪ねたが、すでにもぬけの殻だった。
郵便受けにはポスティングされたチラシが大量に詰まっていて、何日も帰ってきた形跡がない。
当然、蒼佑が振り込んだ一億円の行方もわからないままだ。
(これくらいで済んでよかった)
彼がその気になれば叔父を詐欺で告発することもできたはずだが、穏便に済ませてくれた。
父の絵と引き換えに結婚を承諾した藍里を愚かだと貶す人もいるだろうが、笑いたければ笑えばいい。それでも一向にかまわない。この身ひとつで大切なものをいくつも守り通せるなら安いものだ。