内緒でママになったのに、溺愛に目覚めた御曹司から逃れられない運命でした。

「わかった」

 蒼佑はそう言って、ワイシャツの袖を腕まくりした。
 幸いなことに買い付けリストが残っていたので、実際の現物と照合しながら作業を進める。
 簡単に整理番号を振り、写真をとる。
 今回の主目的は目録の作成なので、仕事で使っているような高性能のカメラではなく、スマホのカメラで事足りる。
 汚れや破損がないか確認したら元通りにしまい、整理番号を記したタグを巻いておく。

「結構、大変だな」
「数が多いので、かなり時間がかかりそうですね」

 棚から下ろしたのはほんの一部に過ぎない。棚の上だけでなく床に直置きされている物を含めれば、数百点にのぼるだろう。
 この数の美術品は公共の美術館でも、なかなかお目にかかれないだろう。

(本当に素敵……)

 藍里の手の中には丹精込めて作られた見事な工芸品が収められている。
 手袋越しでもわかる繊細な細工に、職人の心意気をまざまざと感じる。
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