お嬢様、庭に恋をしました。
……そっか。やっぱり違うんだ。
翌日、土曜の夕方。
昼間の取材から帰ってきた舞花は、メイクも直さずに庭へ出た。
空気は涼しく、夕焼けがアナベルをオレンジに染めている。
──昨日、なんであんなにもやもやしたんだっけ。
嫉妬?不安?
……いやいやいや。
「ただの仕事だし」と100回くらい自分に言い聞かせたけど、
それでも会いたくなって出てきてる自分が、
いちばん説得力ない。
そんなことを考えていた時だった。
「……おかえりなさい」
低くて静かな声が、いつもの場所から聞こえた。
顔を上げると、悠人が剪定バサミを手に、こちらを見ていた。
「……あ、こんにちは」
「今日もお仕事でしたか?」
「取材があって……少し外に出てました」
「……そうでしたか」
会話は続かない。
なんとなくぎこちなくて、いつものテンポにならない。
──昨日、庭に来なかったのは、ただの偶然。
でも。
「昨日は……いなかったですね」
ぽつりと舞花が言うと、悠人は剪定に視線を戻したまま、静かに返した。
「……こちらも作業は午後で終わっていましたので」
「そうですか」
少し間を置いて、
舞花は意を決して言葉を続けた。
「……昨日、わたしが来なかったの、気づいてました?」
剪定の手を止めた悠人が、ふっと視線を外す。
「……はい。気づいていましたがなんでですか?」
「……気にならなかったんですか?」
「有栖川家のお嬢様ですから。パーティーか何かでお忙しいかと」
淡々としたその口調に、舞花の胸がかすかに痛む。
「……お嬢様とは、住む世界が違いますから」
「それは……関係ないと思いますけど」
「…」
一瞬だけ目が合った。
でもそのまなざしは、まるで“線”を引いてくるようで。
「……こっちは、庭師として作業してるだけなので」
──突き放された。
たしかに、そう感じた。
本当は、「昨日来なかったの、ちょっと寂しかった」って言ってほしかったのに。
「……そうですよね。椎名さんにとっては、わたしもただの“お嬢様”ですもんね」
笑ったつもりだったけど、
声の端が、少しだけ震えた。
悠人は何も言わなかった。
剪定バサミの音だけが、空気を切って響いていた。
──ほんの少しでいい。
同じ場所に立てたら、と思っただけなのに。
舞花はマグを強く持ち直して、ベンチから立ち上がった。
視線を上げないまま、歩き出す。
背中に言葉はなかった。
でも、ふたりの間に落ちたその沈黙が、
いつもより重たく感じた。
昼間の取材から帰ってきた舞花は、メイクも直さずに庭へ出た。
空気は涼しく、夕焼けがアナベルをオレンジに染めている。
──昨日、なんであんなにもやもやしたんだっけ。
嫉妬?不安?
……いやいやいや。
「ただの仕事だし」と100回くらい自分に言い聞かせたけど、
それでも会いたくなって出てきてる自分が、
いちばん説得力ない。
そんなことを考えていた時だった。
「……おかえりなさい」
低くて静かな声が、いつもの場所から聞こえた。
顔を上げると、悠人が剪定バサミを手に、こちらを見ていた。
「……あ、こんにちは」
「今日もお仕事でしたか?」
「取材があって……少し外に出てました」
「……そうでしたか」
会話は続かない。
なんとなくぎこちなくて、いつものテンポにならない。
──昨日、庭に来なかったのは、ただの偶然。
でも。
「昨日は……いなかったですね」
ぽつりと舞花が言うと、悠人は剪定に視線を戻したまま、静かに返した。
「……こちらも作業は午後で終わっていましたので」
「そうですか」
少し間を置いて、
舞花は意を決して言葉を続けた。
「……昨日、わたしが来なかったの、気づいてました?」
剪定の手を止めた悠人が、ふっと視線を外す。
「……はい。気づいていましたがなんでですか?」
「……気にならなかったんですか?」
「有栖川家のお嬢様ですから。パーティーか何かでお忙しいかと」
淡々としたその口調に、舞花の胸がかすかに痛む。
「……お嬢様とは、住む世界が違いますから」
「それは……関係ないと思いますけど」
「…」
一瞬だけ目が合った。
でもそのまなざしは、まるで“線”を引いてくるようで。
「……こっちは、庭師として作業してるだけなので」
──突き放された。
たしかに、そう感じた。
本当は、「昨日来なかったの、ちょっと寂しかった」って言ってほしかったのに。
「……そうですよね。椎名さんにとっては、わたしもただの“お嬢様”ですもんね」
笑ったつもりだったけど、
声の端が、少しだけ震えた。
悠人は何も言わなかった。
剪定バサミの音だけが、空気を切って響いていた。
──ほんの少しでいい。
同じ場所に立てたら、と思っただけなのに。
舞花はマグを強く持ち直して、ベンチから立ち上がった。
視線を上げないまま、歩き出す。
背中に言葉はなかった。
でも、ふたりの間に落ちたその沈黙が、
いつもより重たく感じた。