聖女、令嬢、普通の子
 「まったく、ロノも大袈裟だな」
 「きゃぁ! ハルオト様⁉」

 私のそばに寄ってきたのはハルオト・アイゼンバーン。
 家はフォールエイト魔法王国の中でも一、二を争う大富豪。父親が魔法協会会長で、幼少の頃から抜きんでた魔力と膨大な数の魔法を繊細に扱えることから、〈千の魔法使い〉などと呼ばれている。彼もまた乙女ゲーでいうところの攻略対象者なのだが……。

 「ただのカエルじゃないか、お嬢さん貸したまえ」
 「あっ、はい、どうぞ」

 私の手の平からハルオトの両手にそっと移す。

 「ふふっ、よく見たらかわいい顔をしているじゃないか?」

 そうでしょうとも!
 中々、話のわかる人だ。
 それなら……。

 「さっき、そこに止まっていたので、捕まえました」
 「うん? どれどれ……ぎゃふぃえ゛」

 カエルがOKならエサであるハエも大丈夫だと思ったのに……。
 噴水の縁に止まっていたハエを捕まえたのでカエルにあげたのだが、舌で素早くハエをキャッチしたカエルはジャンプしてハルオトの顔にくっついた。

 すごい呻き声をあげた後、仰け反って地面に頭を打って気絶したハルオト。

 これって私のせい?
 どうしようかと悩み始めたらまた新しく人垣を割って入ってきた人物がいた。

 「どうした? 騒がしい」
 「ファーン王子……」

 乙女ゲーでは本命中の本命。
 フォールエイト魔王王国第2王子ファーン・エグゼシア。
 金髪、イケメン、この国の王族とほぼ最強の肩書と容姿で学園内でも圧倒的な人気を誇るが、俺様系キャラなので、まわりから距離を置かれる存在。

 「なにしてるんだハルオト。治癒室まで連れてってやる」

 気絶しているハルオトに肩を貸して、彼を起こすと人の輪の真ん中にいる私の方を見た。

 「おい、そこのお前。一緒に来い」
 「私? ……はい」

 まあ、ハルオトが気絶したのもある意味、私が原因であることは否めない。それにしても「お前」だって。初めて他人に言われちゃった。

 ファーン王子はその性格ゆえに乙女ゲーの中では攻略難易度がもっとも高い。まあ、彼の攻略が難しいのは本当はもっと別のところにあるのだが……。


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