魔法文具屋で、“わたし改革”はじめます!
黒瀬くん迷うように視線を泳がせ、それからふと、ある棚に目をとめた。
まっすぐに並べられた定規たちの中に、ひときわ柔らかな透明感をもつ一本があった。
《ほどける定規》
——自分にかけたプレッシャーや「こうあるべき」を、少しだけほどいてくれる。
線を引くとき、まっすぐじゃなくていいって思える定規。
「それ、曲がるんだよ」
ここねが言った。
黒瀬くんは、手に取った。
ゆっくりと、左右にたわませてみる。
……ぐにゃり。
でも、すぐに——元通り、まっすぐに戻った。
「『ほどける定規』っていうの。
強さって、まっすぐでいることだけじゃないんだって、教えてくれるよ」
黒瀬くんの目が、少しだけ動く。
今の黒瀬くんにぴったりかもしれない。
「……俺さ。
“ちゃんとしなきゃ”って思ってばっかだった。
人前でも、自分の中でも、失敗できないって」
「うん。すっごくわかる」
ここねは、ふっと笑った。
「わたしも、そうだったから。
いい子に見られたくて、ちゃんとしてなきゃって、ずっと思ってた。
でも、“しなやかに”いるって、すごく強いことなんだなって——最近、少しずつ思えるようになったの」
黒瀬くんの指の中で、定規はまた少しだけたわんだ。
でも、ちゃんと元に戻った。
「……しなやかに、か。俺に、それ、できるかな」
「できるよ。だって、さっきちょっとだけ、素直だったし」
その言葉に、黒瀬くんが一瞬だけ固まる。
でも、すぐにふいと目をそらしながら、定規をポケットに入れた。
「……ありがと」
背を向けて帰っていくその背中は、少しだけ軽くなっているように見えた。
あの背中が、少しだけ遠ざかっていく。
でも今のわたしなら——きっともう、背負わなくていい期待と、優しく折り合える気がした。