男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される

 剣道はあくまで競技。スポーツだ。
 今私が騎士見習いとして鍛錬を積んでいるのは、戦で人を殺すための剣。

「その癖が抜けない限り、昇級試験には受からないと思え」
「……はい」

 低く返事をしてから、ふと気付いて顔を上げる。

「え?」
「なんだ」
「や、えっと……私、まだ此処に居ていいんですか?」
「騎士になりたいのだろう?」
「は、はい!」

 思わず声を張り上げ返事をしていた。
 てっきり追い出されるものだと思っていたが、まだ居ていいのだとわかって興奮を覚える。

(なんだよ、こいつ思ったよりいい奴じゃん!?)

「他には何が出来る」
「え?」
「聖女の力でだ」
「あー、傷を治したり、空を飛んだりとか?」
「空を?」

 初めて驚いたようにラディスが目を見開いたのを見て、私は得意になって胸を張る。

「凄いだろう。私の一番のお気に入りだ!」
「俺も飛べるか?」
「は?」

 その緑の目が、子供のようにキラキラと輝いて見えるのは私の気のせいだろうか……?


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