男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される

 ――それから、ラディスが私に対し少しは優しくなったかというと、そんなことは全く無く。

「おいそこ! 誰が止まっていいと言った、走れ!」
「すみませんっ!」

「そんな動きではすぐにやられるぞ! 隙を作るな!」
「はいっ!」

 スパルタなのは相変わらずで、やっぱこいつムカツクと思いつつも一ヶ月後の試験に向け私は負けじと日々努力していた。
 本当にあまりにも以前と変わらなすぎて、あの夜の出来事は夢だったのだろうか……? そう思い始めた頃だった。

「今夜、武器庫の裏で待つ」
「え」

 その日の鍛練が終わったタイミングで、この間のように通りすがりに小さく耳打ちをされた。
 間違いなく、今夜また空へ連れていけという呼び出しだろう。

(やっぱ、夢じゃなかったんだ)

 そう思うと同時、妙に心が浮き立つのを感じた。


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