男装聖女は冷徹騎士団長に溺愛される
私は少し迷ってから続ける。
「いつもそんなふうに穏やかな顔してればさ、もっと皆に好かれるっていうか、もっと接しやすいのになぁと」
『冷徹騎士団長』なんて言われなくて済むのにと、そう思ったのだ。
はぁと奴は溜息を吐いた。
「俺が皆に好かれてどうする」
「え?」
「確かに、俺のことが気に食わなくて去っていく奴は多い。が、俺に怒鳴られた程度で辞める奴は戦場でも真っ先に逃げ出すか殺されるかだ」
今は真っ黒に見える広大な森の向こう、遠くバラノスの方向を見つめた奴を見て私は目を瞬く。
「……わざと怒鳴ってるってことか?」
「好きで怒鳴っていると思うか?」
ちょっと思ってた、とは言えなかった。
(そうだったのか……)
いざ戦場となれば団長として皆の命を預かるわけだから厳しくして当然かもしれない。
しかし本意でなく普段から皆に厳しく接しているのだとしたら、それはきっと相当のストレスだろう。
(私に頼んでまでこうして空に来たがる気持ちもわかるかも)