あやまちは、あなたの腕の中で〜お見合い相手と結婚したくないので、純潔はあなたに捧げます〜

2・接近

 数日後、ひなは荷物をまとめて、長屋を引き払った。
 粗末ながらも、両親と暮らした思い出が染みついたこの家を離れるのは、想像以上に胸にこたえた。

(……父さん、母さん。どうか見守っていてください)

 亡き両親の古い写真にそっと手を合わせる。それを大切に懐にしまい、ひなは家を出た。
 長屋の近所の人々に挨拶をしてまわると、「偉くなったねえ」と笑う人もいれば、「無理しないでね」と手を握ってくれる人もいた。その一つ一つが、名残惜しく心に沁みた。

 そして、ひなは再び早乙女家の門をくぐった。
 
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