あやまちは、あなたの腕の中で〜お見合い相手と結婚したくないので、純潔はあなたに捧げます〜
その後、炊事の手伝いを終えたひなは、手桶を片づけながら訊ねた。
「……あの、旦那様って、やっぱり、噂の通りの方なんですか?」
その場にいた山根と、先輩女中の春江が顔を見合わせる。
しばしの沈黙ののち、山根が口の端を緩めた。
「ふふ……どこで聞いたの? 『冷酷な若当主』ってやつ?」
「はい……村の長屋でも少し……」
「まあ、確かに睨まれたら石でも震え上がる顔はしてるわねぇ。背筋ぴんとして、口数少なくて。でも、叱られたことなんて一度もないわよ」
春江がすかさず続ける。
「私もよ。まあ、仕事さぼってたら話は別でしょうけど。でも──笑ったところは、見たことないかもね」
その言葉に、ひなは目を瞬いた。
「……え? でも、さっきは……」
春江は小さく頷き、肩をすくめる。
「そうなのよ、だから驚いちゃって」
「私は先代の頃からこの家に仕えているけど……昔は快活なお坊ちゃんだったのよ。でも……」
山根が寂しそうな目で遠くを見つめると同時に、春江がひなの耳元でささやく。
「ほら、やっぱり元軍人さんだから……過去に、何かあったのかもしれないわね」
その言葉に、ひなの胸が少しだけ詰まる。
厳しい人なのだろうと覚悟していた。けれど、彼の目には冷たいものよりももっと遠くを──言いようのない影を見ているような気がしていた。
「……あの、旦那様って、やっぱり、噂の通りの方なんですか?」
その場にいた山根と、先輩女中の春江が顔を見合わせる。
しばしの沈黙ののち、山根が口の端を緩めた。
「ふふ……どこで聞いたの? 『冷酷な若当主』ってやつ?」
「はい……村の長屋でも少し……」
「まあ、確かに睨まれたら石でも震え上がる顔はしてるわねぇ。背筋ぴんとして、口数少なくて。でも、叱られたことなんて一度もないわよ」
春江がすかさず続ける。
「私もよ。まあ、仕事さぼってたら話は別でしょうけど。でも──笑ったところは、見たことないかもね」
その言葉に、ひなは目を瞬いた。
「……え? でも、さっきは……」
春江は小さく頷き、肩をすくめる。
「そうなのよ、だから驚いちゃって」
「私は先代の頃からこの家に仕えているけど……昔は快活なお坊ちゃんだったのよ。でも……」
山根が寂しそうな目で遠くを見つめると同時に、春江がひなの耳元でささやく。
「ほら、やっぱり元軍人さんだから……過去に、何かあったのかもしれないわね」
その言葉に、ひなの胸が少しだけ詰まる。
厳しい人なのだろうと覚悟していた。けれど、彼の目には冷たいものよりももっと遠くを──言いようのない影を見ているような気がしていた。